
香港
2 章 地域統括拠点の活用方法
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1 章 地域統括会社の作り方
2 章 地域統括拠点の活用方法
3 章 M&A
4 章 会計
5 章 税務
6 章 労務
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配当により利益を集約し、再投資拠点とする方法
本章では、実際の地域統括会社の活用方法とその際の課税関係を、日本から直接投資を行った場合と、地域統括会社を設置した場合とで比較しながら解説していきます。ビジネスは一般的に、投資をすることにより利益が還元され、得た利益を再投資の資金に回すというような付加価値の連続で成り立っています。当該利益を使って新しいビジネスを打ち立てることや、既存事業拡大のため再投資を繰り返すことにより、さらなる利益を生み出すことができるのです。したがって、低税率国にビジネスの再投資拠点を置くことにより、還元される利益に対する課税額が抑えられ、その分を再投資に回すことができます。このように、再投資の財源確保のため、いかに税負担を軽減するかがアジア地域の組織構築における重要なテーマとなるでしょう。 -
配当による利益の還流
配当により海外の子会社が稼得した利益を還流する方法が一般的です。その際、配当を受取った国においては、通常所得として扱われ、 所得税が課税されることになります。一方、配当の支払国側では、所得の源泉地であるため、源泉所得税が課税されることになります。これらの課税要件が他国に比べて優遇されている国も存在します。 シンガポール、香港はその代表であり、税率差を利用することで税コ ストを削減することができます。また、租税条約を締結している国同士であれば、国内法、租税条約のうち、どちらか有利な税率を選択することができます(プリザベーション・クローズ)。 -
受取配当所得に対する課税
シンガポール、香港においては、企業誘致のため税率の軽減化を強化しており、受取配当所得に関しても免税などの優遇措置を設けています。日本を含むそれぞれの課税の要件については次のとおりです。
■ 日本において配当を受取る場合日本の場合、配当所得に対しては日本国内にて課税されます。法人の場合、受取配当は法人税法上では益金に算入され、法人税の課税対象となります。当該配当は日本で課税される以前に、外国子会社の所在地国にて法人の所得に対する税が課税された後の税引後の利益から支払われるため、外国子会社の所得に関し、通常、現地と日本にて二重課税が発生していました。この国際的二重課税を回避するため、2009 年度に税制が改正され、外国子会社配当益金不算入制度が導入されました。当該改正により日本での所得金額の計算上、配当金額の 95% が益金に算入されないようになりました(法人税法 23 条 の2 項)。 つまり、海外子会社から受取る配当金に対しては、配当金額の 5%に法人税率を乗じて算出された金額が課税されることになります。
[ 計算例:子会社からの配当が 100 の場合 ](1)受取配当所得 = 100(2)外国子会社配当の益金不算入 = 100 × 95% = 95(3)課税の対象となる所得(1)-(2)= 100 – 95 = 5(4)日本での納付税額 = 5 × 40%※ = 2※計算の便宜上、日本の法人実効税率を40%と仮定する。以下同様.jpg)
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配当の支払国における源泉所得税
■各国の子会社から直接日本へ還流する場合と地域統括へ還流する場合の違い上述のとおり、各国の子会社から直接日本へ還流するのではなく、地域統括会社へ還流し、再投資することにより、税金の軽減化や投資の効率化につながります。 その際、地域統括会社に配当を還元する前に、被統括会社の所在地国の税法に従い源泉課税されます。しかし、統括会社と被統括会社の 所在する国同士が租税条約を締結している場合、原則国内法と租税条約に定められている税率のどちらか有利な方を選択することができます。例としてタイ、インドネシア、ベトナムを取り上げると、各国に所在する子会社から直接日本の親会社に還流する場合、国内法において、タイは 10%、インドネシアは 20%、ベトナムは非課税と源泉税率が定められており、各国で配当課税額を支払う義務が発生します。 ただし、各国ともに日本と租税条約を締結しており、タイは 10%、 インドネシアは 10%、ベトナムは非課税となっています。.jpg)
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ここで、インドネシアから日本に配当 100 を送ると仮定して、最終的な日本での手取額を考えてみます。まず、日本に配当を送る前にインドネシアで源泉課税されます。税率に関しては、上表にあるように 10% が課税されますので、100 か ら 10 を引いた 90 が日本に送られることになります。日本に配当が届いたら、これに対しても課税されます。上述したように、日本は海外子会社から受けた配当に対して、配当金額の 5% に、法人税率である 40% を乗じた額が課税されるので、今回のケースの 場合、100 の 5% のさらに 40% である 2 が課税金額とな ります。つまり、日本に送られてきた配当の 90 から 2 を引いて算出した 88 が日本で受ける手取額ということになります。
計算式日本での手取額 = 配当金額 - 源泉税額 - 日本での法人税額88 = 100 - 100×10% - 100×5%×40%
また、他国においても、同様の計算により手取額が算出されます。 しかし、シンガポール、香港に関しては、地域統括会社の場合、配当に対して非課税となるため、単純に配当額からそれぞれ租税条約にて定められている税率を乗じた額を差引いたものが、各国での手取額となります。
一方この場合、各国の法人税率に気を付けなければなりません。低税率国に地域統括会社を設立する場合は、タックス・ヘイブン対策税制を考慮する必要があります。特にシンガポールと香港は、法人税率がそれぞれ 1 7%、1 6.5% となっており、租税負担 20% 以下という低税率国の定義に該当しているので注意が必要です。 -
地域統括会社から日本の本社へさらに還流する場合
被統括会社で得て統括会社に還元した配当を、再投資に回さず日本本社へ還流する場合、日本と対象国の間で締結された租税条約もしく は各国国内法に基づいて課税されます。日本とシンガポール、香港間の配当に係る租税条約および国内法の 源泉税率は、下記のとおりです。
シンガポール、香港から日本へ配当を送る場合、上記にあるように、租税条約よりも国内法で定められた税率の方が有利になっている ため、国内法が適用されます。たとえば、シンガポールと香港の場合、支払国では源泉非課税となっているため、日本の親会社への配当については、外国子会社配当益金不算入制度による 2%(5%×4 0%(法人税率))の課税のみとなります。計算式日本での手取額 = 配当金額 - 日本での法人税額98 = 100 - 100×5%×40%
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ファイナンス・カンパニー(貸付機能)としての活用
地域統括会社は、日本に所在する親会社のファイナンス・カンパニーとして活用することができます。それにより、グループ内で貸付け を行うことができ、他から借入れるのに比べ、資金の管理が効率化さ れるとともに、利子に対する課税も低く抑えることができます。まず流れとしては、シンガポール、香港などの低税率国に地域統括 会社をおき、高税率国の事業会社を被統括会社にします。そして、高税率国にある被統括会社が低税率国にある地域統括会社から資金の借入れを行い、利子を支払います。その結果、高税率国の被統括会社は支払利子を損金算入することにより、課税所得は減少し、低税率国の地域統括会社は受取利子の税率が軽減されます。このように、地域統括会社をファイナンス・カンパニーとして活用するためには、利子に対して非課税または低税率であるなど金融イン フラが充実していること、資金移動を制限するような規制が少ないこ となどが必要になります。ただし、グループ会社が増えてグループ内での貸付が多くなると、 資金管理が複雑になるため、グループ内の資金の最適配分を考えなければいけない点に注意が必要です。.jpg)
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受取利子に対する課税
シンガポール、香港は、受取利子に関しても配当同様に、免税などの優遇措置を設けています。日本を含むそれぞれの課税の要件は以下のとおりです。
■ 日本において利子を受取る場合日本の場合、受取利子に対して通常の法人税が課されます。ただし、外国税額控除の対象であれば、源泉地国にて源泉課税された分を法人税から控除することができます。たとえば、インドネシアから日本に利子を支払う場合、租税条約により定められている税率である 10% がインドネシアにおいて源泉課税されるので、 実際に日本での課税率は 40% から 10% を控除した 30% が受取利子に対して課税されます。
■ シンガポール、香港において受取る場合[ シンガポールの場合 ]シンガポール国内において受領する国外源泉所得については、原則課税対象となります。したがって、海外子会社から受取る利子についても課税対象となりますが、以下の要件を満たすことにより非課税の対象となります。
・ 国外支店での所得に帰属するもので、すでに対象国において課税対象になっていること・ 対象国の最高法人税率が、15% 以上であること・ 2003 年 6 月 1 日以降に受領したもの
[ 香港の場合 ]香港において、海外子会社から受取る利子については、非課税とな ります。これらの観点から、シンガポールや香港は低税率国であるうえ、金融インフラも充実しているため、ファイナンス・カンパニーの役割を持った地域統括会社の設置国として最適です。 なお、利子の受払を通じた税負担の軽減を実現するには、移転価格税制、その他過少資本税制について十分に検討する必要があります。
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決済機能集約による効率化の活用事例
現在、多くの日本企業が海外に進出し、生産、販売の拠点として子会社を複数設立するケースが存在します。しかし、子会社が増えるこ とにより取引数が増大し、複雑化することで、決済が困難になってし まいます。そこで、日本に本社を置く企業がアジアに複数の子会社を展開している場合、地域統括会社に決済機能を集約させることで、ア ジア地域の複数拠点で発生する膨大な取引の効率化や為替リスクの軽減を図ることが可能になります。 -
決済の効率化、為替リスクの軽減のための活用
アジア地域の複数の国に生産拠点と販売ネットワークがあり、グループ会社間で原材料や部品などを生産し、相互補完する仕組みがある場合、地域統括会社で膨大にある取引の効率化および為替リスク軽減を図る必要があります。その場合、アジア地域内のグループ会社間の取引(部品・原材料の相互調達)のすべてを仲介し、相殺処理決済を行います。
■ 三拠点取引による為替リスクの軽減ベトナムに拠点を置くグループ会社からインドネシアに拠点を置くグループ会社へと取引の流れがある場合、通常は二拠点間で直接取引が行われますが、今回は二拠点の間に地域統括拠点を活用する三拠点取引の事例について考えてみます。インドネシアとベトナム間において取引が行われるときに、通常二拠点間取引では互いの自国通貨を使用するため為替リスクが生じてしまいます。しかし、二国間に地域統括会社を置き、当該取引を地域統括会社において相殺処理することにより、為替リスクを軽減することが可能になります。またこの場合、地域統括会社は決済拠点として利用し、実際の商品の流れは二国間で行われることになるので、物流のルートが変わるなどのリスクもありません。これらの膨大な取引をすべて各国の事業会社間でバラバラに行えば、銀行手数料だけで相当な金額になる上に、為替変動によるリスクも大きいため、採算性の低下が懸念されます。そのため、地域統括会社である海外ホールディング・カンパニーを設立することにより、このような仲介取引をすることが可能となります。これらの観点から、金融インフラが整備されているシンガポールや香港は、決済機能を集約する地域統括会社の設立国として選定されるケースが多いのです。.jpg)
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サプライチェーンの機能およびリスクを見直す事例
一般的に、製造業の研究開発、原材料の調達、製造、配送、マーケティング、販売、アフターサービス等、一連のプロセスをサプライチ ェーンといいます。日本企業の生産拠点の海外展開が進んだことで、サプライチェーン を複数の国のグループ会社を通じて行われるケースが増えています。 そのことにより、地域統括会社のメリットを活かせる一方、在庫リス ク、流通の複雑化など一定のリスクを負うことにも注意が必要になり ます。そこで、一連のサプライチェーンから生じた利益に対する実効税率軽減の事例と、それに伴うリスクを考えてみたいと思います。 -
実効税率の軽減とそれに伴うリスク
たとえば、インドネシアやベトナムなどに生産拠点を設ける際、対象となる地域統括会社に、特許権や商標権、販売ノウハウなどの無形固定資産を移転します。また、無形固定資産の形成、維持、発展に伴う研究開発活動やブランド価値創造を行う機能も移転させます。高税率国にある各国の被統括会社は、地域統括会社から受けた無形固定資産の使用対価であるロイヤルティを支払います。支払ロイヤルティは、高税率国で損金算入され、受取ロイヤルティ は、低税率国で課税されることになるので、グループ全体の実効税率を抑えることができます。ただし、ロイヤルティは支払時に源泉徴収課税する国が多いので、無形資産を保有する地域統括会社の所在する国とロイヤルティを支払う被統括会社の所在する国が租税条約において、優遇された税率が定められているかがポイントとなります。その他、被統括会社が販売を代行する場合、委託者である地域統括会社は、販売代理人である被統括会社に販売手数料を支払います。これは、低税率国にある委託者である地域統括会社の販売に関するリスク(在庫リスクや売掛金回収リスク)を、被統括会社に移転することになります。販売手数料は、高税率国で損金算入され、受取手数料や製品の販売利益は低税率国で課税されることになるので、グループ全体の実効税率を抑えることができます。.jpg)
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ロイヤルティに対する課税
地域統括会社が被統括会社に技術などを移転した際、対価としてロイヤルティを受取ります。ロイヤルティとは、ブランドやノウハウに係る使用料等が該当します。なお、配当、利子同様に、ロイヤルティも課税対象となります。
■ 日本においてロイヤルティを受取る場合日本でロイヤルティを受取った場合、当該ロイヤルティに対して法人税が課せられます。ただし、外国税額控除の対象であれば、源泉地国にて源泉課税された税額を法人税から控除することができます。た とえば、インドネシアから日本にロイヤルティを支払う場合、租税条約により定められている税率である 10% がインドネシアにおいて源泉課税されますので、日本では通常の法人税率である 40% から 10% を控除した 30% が受取ロイヤルティに対して課税されます。
■ シンガポール、香港においてロイヤルティを受取る場合[ シンガポールの場合 ]シンガポールにおいて国外からロイヤルティを受領する場合、原則 17% の法人税率が課税されます。ただし、地域統括会社の場合、 15% の軽減税率が適用されます。
[ 香港の場合 ]香港において、海外子会社から受取るロイヤルティについては、非課税となります。 -
ロイヤルティの支払国における源泉所得税
■ 各国の子会社から直接日本へ還流する場合と地域統括へ 還流する場合の違いロイヤルティの支払においても、配当、利子と同様に地域統括会社に還流する際、被統括会社と統括会社の所在国間に締結された租税条約に定められている税率が課せられます。 例としてタイ、インドネシア、ベトナムを取り上げると、各国に所在する子会社から、直接日本の親会社に還流する場合、国内法では、 タイは 1 5%、インドネシアは 2 0%、ベトナムは 1 0% の源泉税率とな っており、各国で利子の課税額を支払う必要が発生します。しかし、 二国間で租税条約を締結している場合、原則として租税条約もしくは 国内法に定められている税率のうち有利な方を選択できます。税率は 以下のようになります。
■ ロイヤルティ支払時におけるVATロイヤルティ支払時には、両国において VAT は課税されません。 ただし、タイでは日本へのロイヤルティ支払はサービスの輸入としてVAT の対象となります。 -
マネジメント・フィーに対する課税
地域統括会社が被統括会社に対し役務提供を行う場合、対価としてマネジメント・フィーを受取ることになります。 当該役務提供にはマネジメントサポート契約等が該当し、その対価として支払われるマネジメント・フィーに対する課税は、VATなどに留意が必要です。
■ 日本においてマネジメント・フィーを受取る場合日本でマネジメント・フィーを受取った場合、当該マネジメント・ フィーに対して通常の法人税率が課せられます。
■ シンガポール、香港においてマネジメント・フィーを受取る場合[ シンガポールの場合 ]シンガポールにおいて国外からマネジメント・フィーを受領する場合、原則 17% の法人税率が課税されます。ただし、地域統括会社の場合、15% の軽減税率が適用されます。
[ 香港の場合 ]香港において、国外から受取るマネジメント・フィーについては、 非課税となります。
■ マネジメント・フィーの支払時におけるVATマネジメント・フィーを地域統括会社に還流する場合、支払国側でVATが課税されることに留意が必要です。タイ、インドネシア、ベトナムにおいて課税される VATの税率は次のとおりです。
[ タイの場合 ]タイの付加価値税(VAT)の対象になります。VATの現行の税率 は 7%です。
[ インドネシアの場合 ]インドネシアの付加価値税(VAT)の対象になります。VATの税率は、原則 1 0% とされていますが、政令により 5 ~ 1 5% の間で変更できることになっています。
[ ベトナムの場合 ]経営指導料のようなサービスに対しては、外国契約者税としてみな し法人税が総額の 5%、VAT が総額の 5% の合計 10% が課税されます。国によっては、VAT・サービス税の他、租税条約により源泉徴収税 が発生する場合もあるため注意が必要です。
■ シンガポールや香港が統括拠点として注目されている理由シンガポールや香港は低税率国ということもあり、地域統括会社の 設立国に選定されるケースが多いですが、税制上のメリットのほか、 周辺国へのアクセスが容易な点など他国に比べ多くの優位性を持ち合わせている点も注目を集めている要因として挙げられます。ただし、これらの場合、移転価格税制、タックス・ヘイブン対策税制、PE課税を検討する必要がある点にも注意が必要となります。
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参考文献
・ 江藤祐一郎、菊井隆正、石田仁司「アジア地域統括会社(4)――シンガポールにおける地域持株会社設立に伴う税制」国際税務、2006 年 5 月号・ 新日本アーンストアンドヤング税理士法人編『クロスボーダー M&A の税務戦 略』中央経済社、2009年・ PwC 編『国際税務ハンドブック〈第 2 版〉』中央経済社、2013 年・ 税理士法人トーマツ編『アジア諸国の税法〈第 8 版〉』中央経済社、2013 年
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