シンガポール

2 章 地域統括会社の 制度と活用事例

    • シンガポールにおける地域統括制度

      シンガポールは、外国企業を国内に誘致して、経済活動の生産性を引き上げることを産業政策の重点に置いています。そのため、経済開発庁(EDBEconomic Developement Board)管轄の下、地域統括会社の誘致に力を入れており、一定以上の規模の会社に対して本部制度(Headquarters Programme)と称する優遇税制を適用しています。
      本部制度は事業規模や業種、地理、立地等に関係なく、すべての会社が申請することができますが、下記の事業を行うことが求められます。
       
      ・ 事業計画の策定
      ・ 経営管理
      ・ 営業計画およびブランド管理
      ・ 知的財産(IP)管理
      ・ 教育訓練および人事管理
      ・ 研究開発および試験生産・販売
      ・ 共有サービス
      ・ 経済および投資に関する調査・分析
      ・ 技術支援
      ・ 資材調達および流通
      ・ 財務顧問
       
      本部制度には、地域統括会社( RHQRegional Headquarters)と国際統括会社( IHQInternational Headquarters)の2種類があります。多国籍企業が地域統括会社としての適格要件を大幅に超える事業計画を持つ場合、国際統括会社として認定され、さらなる軽減税率やインセンティブを受けることができます。
       
      また、シンガポールは地域統括会社、国際統括会社制度のほか、貿易会社向けのグローバル・トレーダー・プログラム(GTPGlobal Trader Programme)、金融サービス企業向けの金融・財務センター( FTCFinance and Treasury Center)などの優遇措置が整備されています。
       
       
       
       

       

    • 地域統括会社

      地域統括会社(RHQ)とは、アジア地域の統括拠点を低税率国に置く会社のことを指し、法人税の減税などの優遇制度(RHQAward)を適用することが認められます。
       
      ■ RHQの恩恵を受けるための要件
      RHQの認定を受けるためには、地域統括会社としての外形的な以下の要件を満たす必要があります。
       
      ・ シンガポールで設立または登記された会社であること
      ・ 業界内で一定以上の実績および規模を有する企業グループの会社であること
      ・ グループの指示命令系統における中枢機関であり、明確な管理統括機能を有すること
      下表(RHQの要件)の要件を満たすこと
       
       
      資金面では、最低資本金と支出費用の最低額が定められています。また、サービスの提供国が3カ国以上でなければならないということに加えて、人事面では3年以内に1 0名以上の専門職員を雇用し、かつ上位5名の平均年収が10Sドル以上である必要があります。
       
      ■RHQの優遇内容
      上述の要件をすべて満たした企業が、政府からRHQ の認定を受けた場合、海外適格収入(サービス、ロイヤルティなど)について原則として3年間は15%の法人税率が適用されます。また3年経過後、最低要件を満たす場合に限り、海外のマネジメントフィー、サービス料、ロイヤルティなどの適格所得について、さらに適用期間が2年間延長されます。
       
    • 国際統括会社

      IHQの適用要件
      RHQの適格要件を大幅に超える大規模統括会社は国際統括会社(IHQ)として申請することができます。IHQの認定はEDBとの協議によって決められますが、企業のシンガポール経済への貢献度やEDBに対するアピール、交渉力が影響するとされています。
       
      ■IHQの優遇内容
      IHQとして認定されると5 10年間(最長20年間)、所得の増加分(経営、サービス、販売、貿易、ロイヤルティ)に対して5%もしくは10%の軽減税率が適用されるほか、個別のインセンティブ・パッケージ(IHQ Award)が適用されます。
       
      IHQ 企業例

      P 株式会社

       

      2 0 0 5 年、P・アジア・パシフィックが「国際統括会社」として認定されています。同グループはシンガポールに1 1 の子会社があり、長期間シンガポー ルに投資してきたことが認められ、国際統括会社に認定されました。

      現在は地理的な優位性、優秀なロジスティクス能力、先進的な情報通信インフラや優秀な人材などシンガポールの拠点としての強みを活かして、サプライチェーン、金融、IT、人事、人材開発、エンジニアリングなど、本社機能を持った重要拠点として活動しています。

       

       
    • グローバル・トレーダー・プログラム

      GTPの適用要件
      グローバル・トレーダー・プログラム(GTP)とは、オフショア貿易活動の拠点として、シンガポールに卸売の統括会社を置く企業に対する優遇制度です。当該制度は、エネルギー商品および製品、農産物および食料品、工業製品等に係る国際貿易取引を行い、シンガポールを周辺地域の貿易センターとして活用する企業に適用されます。適用要件の詳細は以下のとおりです。
       

      ■GTP
      の優遇内容
      GTPを付与された企業は、所定の商品や製品の貿易業務から生じた利益に対して5年間5%または10%の軽減税率が適用されます。その後、適用要件を満たすことにより5年間の延長が可能になります。
       
    • 金融・財務センター

      金融・財務センター(FTC)とは、アジア地域内の関連会社に金融・財務サービスを提供する多国籍企業に対して適用される優遇税制です。
      当該制度は、シンガポール政府が世界の金融センターを目指し定めたもので、下記の要件を満たす場合に、10%の軽減税率などの優遇税制が適用されます。
       
      ■ FTCの適用要件
      要件の詳細は以下のとおりです。
       
      ・ 年間経費75Sドル以上(支払利息を除く)の事業を行うこと
      ・ 専門スタッフを3人以上雇用すること
      3社以上の子会社に対して、3つ以上の金融サービス業務を提供すること
       
      なお、上記要件はあくまでも目安とされ、金融サービスの内容については次のように規定されています。
       
      ・ シンガポールの金融機関もしくは、グループ会社の剰余金からの資金によるクレジット・ファシリティ(与信枠)の手配
      ・ ファイナンス・アドバイザリー
      ・ 保証・証券・予備信用状の供与や送金に関するサービス
      ・ デリバティブ取引の手配
      ・ シンガポール国外の関連会社の資金管理
      ・ 経済や投資に関する調査や分析
      ・ 信用情報の管理や制御
      ・ 管理業務全般
      ・ 事業計画の策定
       
      ■FTCの優遇内容
      FTCの適用要件を満たす場合、財務・資金管理・調達のサービスから生じる所得や配当に対して、最長10年間、10%の優遇税制が適用されます。
       

       
    • シンガポールにおける地域統括会社の活用事例

       
      株式会社I
      株式会社Iは、2012年に地域統括会社として「I アジア・パシフィック・ホールディングス」(100%子会社)をシンガポールに設立しました。飲料水の販売やマーケティングのほか、地域統括会社を拠点として域内の消費者動向や嗜好に関する情報収集を統括し、同地域の消費者にあった製品開発を手がけていく狙いです。また、同年10月には、販売会社として「I シンガポール」を、販路開拓・流通・物流に強い「B Holdings Pte. Ltd.」と共同出資(Iアジア・パシフィック・ホールディングスの出資比率は90%)で設立しました。当面は日本から輸入したものを販売しますが、近いうちにミャンマーやベトナムに工場を建設し、製造拠点として活用する予定となっています
      ※ミャンマー、ベトナムに製造拠点を設けて被統括会社とする場合は、地域統括会社からの出資もしくは、親会社による出資で設立したのちに、組織再編を行う必要があります
       
      【シンガポール地域統括会社を利用した事業構成】
       
       
      軽減税率を利用した資金還流手法およびその内容・メリット
      シンガポール地域統括会社における軽減税率の適用においては、販売会社の売上に対して、いかに資金還流を行うかが重要なポイントと なります。Iを例として、資金還流について解説していきます。
       
      サービス・フィー
      Iの地域統括会社では、商品の販売に加えてマーケティング・市場調査等を行っており、これらの役務について、サービス・フィーとして子会社から資金回収を行っていると考えられます。また、シンガポール地域統括会社において、法人税の軽減税率が適用されるとともに、サービス・フィーおよび貿易所得に関する源泉税の減免措置も適用されます。今回のI の場合、販売も行っておりますが、地域統括割合の規制に抵触しない範囲での売上に留めることが必要となります。
       
      ロイヤルティ
      地域統括会社が子会社に対して技術移転等を行った場合、対価としてロイヤルティを受取ります。この場合、シンガポール国内において受領する 国外源泉所得については課税対象となるため、受取ったロイヤルティに対してシンガポールにおいて課税されます。
       
      配当金
      海外の子会社が稼得した利益を還流する方法としては、配 当が一般的です。配 当により資金を還流した場合には、通常、源泉地国において配 当金の支払時に源泉課税されます。シンガポールにおいて課税対象となる場合、源泉税および配当金に対する二重課税となるので、救済措置として受取配当金についての免税が認められています。配当金課税減免の適用要件は以下のとおりです。
       
      ・ 源泉地国の最高法人税率が15%以上
      ・ 対象となる国外源泉所得が源泉地で課税されている
       
      たとえば、被統括会社の所在地がインドネシアやベトナムにあり、当該所得が源泉地国で課税されている場合、上記の条件に当てはまり、免税の対象となります。
       
      [その他の地域統括会社設置のメリット]
      地域統括会社のメリットは、上記にあるような軽減税率による活用が一般的ですが、シンガポールの立地や地域統括会社の機能それ自体のメリットも活用できます。I が将来的にミャンマーやベトナムを製造拠点として利用するのも、これらのメリットを十分に活かす戦略といえます。
       
      アジア近接地帯による物流コストの軽減
      I シンガポールは当面の間、日本から製品を輸入する方針ですが、将来的にはミャンマーやベトナムを製造拠点として活用する意図があります。シンガポールは地理的にアジアの中心に位置しているため、物流コストを軽減させることが可能となります。また、為替に関するコストも軽させることが可能です。詳しくは次項で説明します。
       
      外貨建資金の保有による為替リスクの軽減
      たとえば製造拠点のミャンマーから販売市場のタイへ製品を送って販売する場合、本来であればミャンマー「チャット」と、タイ「バーツ」で取引を行うので、為替差損益が発生します。
      これに対し、シンガポールでは複数の外貨建口座を開設することが可能となります。したがって、物流は直接ミャンマー・タイ間で行い、シンガポールを間に介入させることで、取引の相殺処理による管理効率化および為替差損益の集約によるリスク軽減が可能となります。
       
      [地域統括会社活用におけるリスク]
      これまで挙げてきた軽減税率、その他のメリットを享受するに際して、注意すべきリスクが何点かあります。地域統括会社設立・運用に際して、事前にこれらのリスクを把握し、対応策を講じておく必要があります。
       
      移転価格税制
      詳細は6章の「地域統括会社の税務リスク」でも述べますが、物流の拠点として地域統括会社を利用し、その際の関連会社間取引における価格が妥当でないと判断された場合、当該税制が適用されます。具体的には、妥当でない価格で取引を行った場合における納付税額が、適正価格で取引を行った場合における納付税額よりも少ない場合、その差額分を所得とするといったものです。
      移転価格税制の調査は年々厳しくなっており、「移転価格文書」や「国外関連取引について法人が算定した 独立企業間価格に係る書類」等の事前準備は最低限必要になります。
       
      タックス・ヘイブン対策税制
      タックス・ヘイブン対策税制とは、海外子会社を持つ企業の租税回避を図る行為を取り締まる制度です。シンガポールにおいては タックス・へイブン対策税制の規定はありませんが、日本側での規定は存在し、 移転価格税制と同様に事前対応すべきリスクとなります。
      タックス・へイブン対策税制が 移転価格税制と決定的に異なる点は、その適用要件にあります。 移転価格税制が価格の妥当性といった不確定要素についての検証を行うのに対し、 タックス・ヘイブン対策税制はその適用要件が明確に規定されています。したがって、 移転価格税制に比べ、対策が簡易となっています。また、「 タックス・ヘイブン対策税制の適用除外」の規定も設けられています。詳細は6章「地域統括会社の税務リスク」を参照してください。